NHK 世界の哲学者に人生相談 第10回「いやな記憶に向き合う」
第10回「いやな記憶に向き合う」1
「過去の嫌な記憶 忘れることができない」(44歳 女性)
この悩みにフランス19世紀後半の哲学者・アンリ・ベルクソン(1859-1941)が考えを示す.
ベルクソンは,人の意識,時間,自由,心身の関係を説いた,生命の哲学者の元祖.
当時は,近代化が急速に進み,科学が進歩する.
ベルクソンは,都合の良い結果だけ発表し,わからないことにはフタをする,科学の姿勢を批判.
特に,時間の概念に噛み付いた.
1時間は60分 1日は24時間と時間を区切ったことで,人は時間に支配されて窮屈になってしまったと論じた.
ベルクソンは,時間は体感する記憶によって変化していると考え,
あらゆる知覚は すでに記憶なのだ
と言う.
ベルクソンの言う知覚は,暑い,痛いなどの身体の感覚と,ツライ,悲しいなどの心の感情まで含めている.
何かを見た(知覚した)ときに,すでに記憶がその何かに影響を与えている,というようなイメージ.
知覚が過去の記憶に左右される.
記憶を呼び起こすこととは 想像することで 回想することではない
とも言う.
回想することではない とは,単に過去の事実を思い返すことではない ということ.
過去の事実を思い返すたびに知覚も混ぜ合わされる.
記憶は時と共に上塗り,更新され,肥大化する.
これが,記憶を呼び起こすこととは 想像することで 回想することではないということ.
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磯野貴理子さんの悩み
「心配しすぎな自分。能天気になりたい」
古代中国の哲学者・孔子(紀元前552-479)の考えが示される.
孔子は,より良い人間関係を築くための道徳的な考え方を説いた.
儒教とは,人が生きるために大切な道徳的 教訓.
五徳(仁,義,礼,智,信)を積むことが人間関係を築くために必要だと説いた.
儒教の経典の1つ『論語』には孔子の教えがわかりやすくまとめられている.
孔子は,いつも3回考えて行動に移す心配性な役人に対し
再びせば 斯れ可なり
と言う.
2回考えればちょうどいい,という意味です.
- 作者: 金谷治訳注
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すべては偶然に支配されている
と言う.
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NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」 第9回「同級生に感じる劣等感をどうにかしたい」
第9回「同級生に感じる劣等感をどうにかしたい」1
「同級生に劣等感 同窓会に行きたくない 」Aさん(40代 女性)
劣等感を人生に前向きに活かすにはどうするか.
劣等感に向き合うといえば,20世紀初頭に活躍した勇気づけの哲学者アルフレッド・アドラー(1870-1937)
アドラーは,30代の頃オーストリアで内科医を営んでいた.
当時,アドラーのもとには近くで働くの遊園地で働くサーカス芸人が患者として訪れていた.
彼らの多くは幼いころ,貧しい生活をおくり,身体が弱かったという.
ここでアドラーはあることに気づく.
彼らは貧しさをバネに体の弱さを克服してハードな仕事をこなしている.
このサーカス芸人のように無意識のうちにマイナスの境遇からプラスの境遇に向かおうとする力,それこそが劣等感だと考えた.
後に精神科医として活躍したアドラー.
劣等感を抱く患者に繰り返し伝えた考えがある.
それは
劣等感は誰もが持っている それは健全な向上心のきっかけになる
悪い劣等感は"他者との比較"から生まれる 良い劣等感は"理想の自分"から生まれる
と,アドラーは言う.
アドラーは劣等感に,悪い劣等感と良い劣等感の2種類あると考えた.
アドラーに言わせると,"他者との比較"を止め,"理想の自分"を追求し始めると,良い劣等感になる."他者との比較"から悪い劣等感が、"理想の自分"との比較から良い劣等感が生まれるという.
理想の自分=好きな自分を追求し始めると,良い劣等感が生まれ,それは健全な向上心のきっかけになる.
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ゲストのお悩みは河北麻友子さんの
「悩みがないのが悩み」
17世紀に活躍した哲学者ブレーズ・パスカル(1623-1662)
偉大な物理学者,数学者でもあり,パスカルの原理を発見・「ヘクトパスカル」の由来.
ただし,18歳の頃からいくつかの病気に悩まされ自分自身も悩みを抱えながら考えて生きてきた人.
パスカルは
人間が惨めであることを知るのは偉大であることなのであること
という.
人間が惨めであることを知る,とは,悩みがある,ということ.
ゆえに,悩みがあるのは偉大なことだとパスカルは考えた.
パスカルは徴税官の仕事が大変だった父の「悩み」に対して,解決するため計算機を発明した. 悩むことはステップアップに繋がるから良いことである.
一方,「幸福論」で有名なアラン(1868-1951)
は
苦悩はため息である
と述べる.
ため息(=苦悩)は,息をためて吐く状態
その状態は正常な状態ではない.
だから,悩むことは良くない.
悩まず前向きに生きましょう,という
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NHK Eテレ 世界の哲学者に人生相談 第8回「憎しみを抑えたい」
「人を憎んでしまう」どうすればいい? (55歳 女性)1
感情を徹底的に分析したフランスの哲学者デカルト(1596-1650)
デカルトはもともと頭で考えること,つまり理性こそが人間にとって大切だと考えていた.
しかし,デカルトは,戦争に巻き込まれヨーロッパ中を転々としていた悲劇の王女・エリザベトとの往復書簡によって,感情こそが人間にとって大切であり,愛と憎しみが人間にとって最も根本的な感情という考えに至る.
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デカルトは,
"憎しみ"と"愛"は表裏であり もともと"同じもの"である
自分の想像に騙されず 憎しみの反対の理由も考えよと述べる.
自分の想像に騙されず 憎しみの反対の理由も考えよ とは,なぜあの人はあんなことをするのか?という理由を,違った視点で考えよという意味.
思考実験では良心を考える.
良心 conscience の con は共に science は知る
なので,良心 conscience は,共に知る という意味.
良心は,誰かにこれは良い?と一瞬聞いているのだ.
ゲストのお悩みは池田美優さんの「母親が子離れしてくれない」
近代ドイツの生の哲学者ショーペンハウアー(1788-1860)は 人との距離は近すぎず遠すぎずという.
『法の哲学』の中で,家族や親子のあり方を説いたドイツのヘーゲル(1770-1831)は
子供は他人にも両親にも物件として所属するものではないという.
物件とは物のこと.
近代の社会,ヘーゲルの時代は,子供は親の所有物でありで労働力という発想があった.
ヘーゲルは,家族とは社会の一部であり,けして閉じていてはいけない.社会とお互いにつながり,関連しあっていなければならないと考えた.
そして,親の使命は子供を独立させ,社会に送り出すことだという.
宇宙を支配する数式リング
阪大の公式グッズに「宇宙を支配する数式リング」なる,素晴らしく厨二病感溢れる指輪がある.
しかし,阪大の生協でしか買えないらしく,買うために大阪行くのはちょっとなぁと思っていた. やっとAmazon で発売したと聞き,早速ポチった.
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[「宇宙を支配する数式リング」が売れると]非営利組織である阪大生協の売り上げの一部は阪大に寄付され、それが全学で研究目的にも使用されているから、間接的には科学の発展に関係する https://twitter.com/hashimotostring/status/1002110230644207616
ということなので,科学の発展に僅かながら貢献できるのも嬉しい.
NHK Eテレ「100分 de 名著」神谷美恵子『生きがいについて』第4回 人間の根底を支えるもの
- 作者: 神谷美恵子,柳田邦男
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「生きがい」の問題を考えぬいていくとき、ひとはいつしか「宗教的なもの」に近づいていく。それは決して既成宗教や宗派の枠にとらわれるものではない。それを神谷は、教義や礼拝形式などの形をとる以前の「目に見えぬ人間の心のあり方」と呼ぶ。神谷は、困難に直面している人々と対話する中で、彼らが、自分を超えたより大きなものに生かされていると感じており、自己をあるがままに大きな力にゆだねることで、困難に立ち向かう力を得ていることに気づくのだ。第四回は、神谷美恵子が「生きがいについて」後半でたどりついた独自の「宗教観」を読み解くことで、「人間の根底を支えるものとは何か」を考えていく。 名著76 「生きがいについて」:100分 de 名著
神谷がこの本の中で「生きがい」を告げ知らせるものは大きく分けて3つある
- 人
- 言葉
- 自然
「変革体験」は「気づき」「目覚め」のような簡単な言葉に置き換え,人生を根本から変えるような体験のこと
変革体験を経て,生きがいを見いだす
変革体験は使命感を伴っている.つまり生かされていることへの責任感
生かされていることへの責任感=自己の生が大きなもの[天,神,宇宙,人生]に必要とされている.それに対して忠実に生き抜く責任がある.
変革体験とは大きなものに生かされているという「発見」 この発見が使命感につながる. この時,人は生きがいに目覚めると神谷はいう
素朴なことの中に壮大なものが潜んでいるのが「変革体験」
身近な経験を深めていくことは「生きがい」を見いだしていくこと
神谷は,長島愛生園で暮らす近藤宏一さんに影響を受けた.
- 作者: 近藤宏一
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生きていてよかったという実感
人は自分で生きているのではなく,人々とのつながりの中で生きている.つまり,つながりに生かされている
神谷はハンセン病の人々の中に,既存の宗教や宗派に固定されない,生きた「宗教」があることを感じた.それが,人間の根底を支えていることに気づく.
自分をとりまく大きな力の中に自己を発見していく.その道のりにこそ「生きがい」は見いだされる.
- 作者: 神谷美恵子他
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- 作者: 神谷美恵子
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NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」第7回「“死”“死別”特集」
「死の恐怖や不安をどうすれば?」Aさん(30歳 男性),Bさん(18歳 女性)1
古今東西の哲学者達は「死」について考えてきた歴史がある
心の落ち着きを快楽と考えたエピクロスは 我々が存在するとき死は存在せず 死が存在するとき 我々は存在しないという.
死は生きている間,わからないこと.なぜ死んでからしかわからないことを生きている間にあれこれ想像するんだ?本当の死と,自分が思ってる死は違うはずではないか,と考えた.
20世紀ドイツで活躍した,人の存在を問う"死の哲学者"ハイデガー(1889-1976)
人間の存在について考えた哲学者で,人間は死ぬ存在だから必然的に死に結びつけて考えた.
ハイデガーは 死を意識するからこそ人生は輝くのだと述べる.
ハイデガーは人間は死に向かう存在だという.
だからこそ,死をあらかじめ覚悟すれば人は本気で生きることができる.
「自殺はなぜいけないの? 人はなぜ生きるの?」Cさん(20歳 女性)
18世紀ドイツで活躍した"生の哲学"の先駆者である哲学者ショーペンハウアー(1788-1860)は,『自殺について』の中で
自殺は真実の救済にならないという.
では,真実の救済とは何か?
ショーペンハウアーは,人が苦悩から抜け出そうともがいている状態を,心の手術が行われていると表現する.
手術が終われば,心の問題は取り除かれる.
しかし,もし手術に耐えきれずに自殺してしまったら,真の救済を投げ捨てることになる.
自殺=真の救済を捨てること
ドイツの社会心理学者で哲学者エーリッヒ・フロム(1900-1980)は,『自由からの逃走』で生きる意味を説く.
人生の意味がただひとつある それは"生きる行為"そのものである
人生の意味は頭で考えることではなく,"生きてる行為"そのものである.
「死別の悲しみと後悔から抜けられない」Dさん(49歳 男性)
明治から戦前にかけて活躍した日本を代表する哲学者西田幾多郎(1870-1945)
西田は,西洋の哲学と日本の思想を融合させたいわば日本哲学の父.
そんな西田哲学の動機は悲哀.
中でも,死別の悲しみに関して深い思索を行った西田.
『西田幾多郎随筆集』「我が子の死」
わが子との死別体験から西田は
後悔の念の起こるのは 自己の力を 信じ過ぎるからであるという.
「後悔の念の起こるのは」は「苦悩するのは」ということ.
西田は気晴らしをしても,悲しみを忘れようとしてもうまくいかなかった.
人は「悲しみ」と「喜び」を比較してしまうことで苦悩する.
それは,西田の「純粋経験」(ありのままに経験するということ)という概念と結びついている.
「純粋経験」を自己の力であれこれしようとするから苦しい.
では具体的にどうしたらいいのか?
西田は 折にふれ物に感じて思い出すのがせめてもの慰藉である 死者に対しての心づくしであるという.
慰藉とは慰めのこと.
西田は,悲しみを無理に抑えず「純粋体験」として受け入れ,死者を思い出すことの大切さを提示する.
NHK Eテレ「100分 de 名著」神谷美恵子『生きがいについて』第3回 生きがいを奪い去るもの
- 作者: 神谷美恵子,柳田邦男
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「容易に癒えない病を生きる苦しみ」「愛する人を失った悲しみ」……私たちは、「生きがいを奪い去るもの」を決して避けては通れない。
そんな「苦しみ」や「悲しみ」と私たちはどう向き合ったらよいのか? ハンセン病患者たちが教えてくれるのは、暗闇の中にいる人間こそがむしろ「光」を強く感じるという事実だ。 体が動かなくなったときにこそ感じられる「ここに存在していることの意味」。 大事な人を失ったときにはじめて感じる「命の尊さ」。 わが身に降りかかってくる困難を避けるのではなく、その意味を掘っていくことこそ「生きがい」を深めていく営為なのである。 第三回は、「生きがいを奪い去るもの」との向き合い方、試練に向き合ったときにはじめて気づかされる「生の深み」を学んでいく。 名著76 「生きがいについて」:100分 de 名著
- 神谷はどん底の暗闇の中でこそ光を見出すことができるという
- 奪いされたことで改めて気づく「生きる意味」を紐解き,「生きがい」が奪われたときにどうすればいいかについて考えていく
- 生きがいは人間の中に隠れて存在している
- 病気や天災,愛する人の死は喪失の経験でもあるが人生が大きく変わる契機,新しく生まれ変わるチャンスでもある
人はどうすれば生きがいを取り戻せるのか?
神谷は,人の死は2通りあると考えた
1. 社会的な死 (知人などの死)
2. 私の死 (その存在に全てを賭けていた人の死,私が死んだに等しい経験)
神谷は,かなしみこそが生きがいを導く光という.
- 「生きがい」は無くなることはなく,失ったと感じるだけ
- 私を少し横に置いてみる,と考えたパール・バックを例に,忍耐強くかなしみに耐え「待つ」事で生きがいを見出す,他者の悲しみと共鳴することで再び生きがいを見出すことができると神谷は述べる.
- 自らの後悔や悲しみを経験することは人々の中に他者と響き合う弦のようなものを作り出す
- 生きがいは個的な経験である
神谷美恵子『生きがいについて』 2018年5月 (100分 de 名著)
- 作者: 若松英輔
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2018/04/25
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