設計によるセレンディピティ

"The most powerful force in the universe is compound interest."

NHK 「世界の哲学者に人生相談」 第6回「幸せになるには?」

第6回「幸せになるには?」

「家庭内の状態が最悪 どうしたら"幸せ"になれる?」(30代女性)

この問いにラッセル,ヒルティ,アランが手を挙げる.
この3人は19世紀から20世紀にかけて活躍した哲学者.
3人とも幸せについて論じている.
中でも特にアランが一般の人になじみやすい幸福論を説いている.

アラン(1865-1951)は,高校教師として生徒と触れあいながら,より具体的な哲学を深めた.

幸福論 (岩波文庫)

幸福論 (岩波文庫)

アランは,

幸福は他人に対しても義務である なぜならば幸福は人に伝染するからだ

悲観主義は感情によるもの 楽観主義は意志によるものである

という.

ネガティブに捉えられがちな雨の日を例に,不幸をポジティブに切り替える考え方が提示される.


ゲストのお悩みは元宝塚の遼河はるひさんの
「舞台の時に緊張 どうすればいいのか?」

20世紀最高の知性の一人・イギリスのラッセル(1872-1970)が応える.

緊張屋だったラッセルは,うまくいこうが失敗しようが広い宇宙にはなんら変化はないじゃないか,と考え

宇宙規模から自分をとらえよ

と述べる.

NHK「100分 de 名著」神谷美恵子『生きがいについて』第2回 無名なものたちに照らされて

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

ハンセン病療養施設「長島愛生園」に精神科医として調査に入った神谷美恵子。 しかし患者たちは決して心を開いてくれなかった。 「奥深い問題を探求する上で意味あるものは、むしろそうした機械的調査のあらい網の目からは洩れてしまう」。 そう宣言し、神谷美恵子はこれまで使ってきた学術的方法を放棄する。 その上で、神谷はハンセン病患者たちの只中に入っていき、本当の意味で言葉を交じり合わせていこうとした。 その結果、むしろ患者たちから照らし出されるように「生きがいの深い意味」を知らされていくのだ。 第二回は、神谷美恵子の半生を辿り、彼女が突き当たった壁や困難の意味を考えながら、本当の意味で人間に寄り添っていくとはどういうことか、また、無名な人たちに照らし出される「生きがいの深い意味」を明らかにしていく。 名著76 「生きがいについて」:100分 de 名著

  • 「生きがいの深い意味」に迫る

神谷は精神科医となり,1957年,43歳から7年間,長島愛生園で働く.自宅から片道5時間かけて通っていた.(神谷は41歳でガンに侵されている)

神谷の当初の目的は精神医学の調査だった.
患者からのアンケートには,
毎日 時を無駄に過ごしている,たいくつだ,という返答ばかり.
しかし,中には志樹逸馬のように生きる喜びをあらわす患者もいた.

志樹逸馬詩集 (1960年)

志樹逸馬詩集 (1960年)

同じ状況でも2通りの人間がいる.それはなぜか?
神谷は,研究ではなく,患者と人間対人間として向き合うようになる.

人間がいきいきと生きて行くために,生きがいほど必要なものはない,という事実である.それゆえに人間から生きがいをうばうほど残酷なことはなく,人間に生きがいをあたえるほど大きな愛はない.

  • 生きがいがあるから人は生きている

なぜ私たちでなくてあなたが? (うつわの歌 新版 「癩者に」より抜粋)

うつわの歌【新版】

うつわの歌【新版】

誰を自分の隣人として考えることができるのか?
出会った人,目にした人はあなたの何者かではないのか?

NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」 第5回「満たされない心」

第5回「満たされない心」

「頑張れば頑張るほどむなしい・・・どうしたら心が満たされる?」Aさん(39歳女性)

家事や育児に追われ「心が満たされない」という女性の悩みに,
中国の春秋時代末期 紀元前770-紀元前403 にいたとされる,哲学者・老子の思想が思想が紹介される.

老子は,

無為~ありのままに生きる

と言う.

無為とは,何ら作することく ありのまま ということ.

次に,老子

足るを知る

と述べる.

人は足りないものばかりを追い求め,足りているものには目がいかなくなりがちだが,足りているものに目を向け,自分を見つめることで,心が満たされるかもしれません.


ゲストのお悩みはダイアモンド☆ユカイさんの
「エロスの気持ちをコントロールできない」

哲学の世界には3つの愛がある

  1. アガペー(イエス・キリストが実践した無償の愛)
  2. フィリア(アリストテレス 友人や仲間を大切に思う友愛)
  3. エロス(プラトン 美しい存在に近づきたいという人間が本来持ってる欲望,求める愛)

古代ギリシャの哲学者・プラトンは,

人は完全なものを求める

と考えた.

人は不完全なものだから,完全なものを求めるのは宿命.それゆえ,エロスが湧いてくるのは当たり前だから受け入れるしかない.だけれどエロスは肉体的なものだけでは無い.

プラトンに対して,
18世紀ドイツの哲学者・カントは,

自分を律して自由を感じよ

と主張する.

自分を律する(=理性で抑える)ことが出来なければ,将来,今よりも自由が無くなる.だから,自分を律して,今の自由を感じよ,という意味です.

饗宴 (岩波文庫)

饗宴 (岩波文庫)

『饗宴』はエロスについて書かれた本です.

NHK Eテレ「100分 de 名著」神谷美恵子『生きがいについて』第1回 生きがいとは何か

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

「生きがいとは何か」という極めてシンプルな問いからはじまる「生きがいについて」。神谷美恵子がとりわけこだわったのは、「生きがい」が決して言語化できない何かであり、考える対象ではなく「感じられる何か」であるということだった。「存在の根底から湧き上がってくるもの」「自分がしたいことと義務が一致すること」「使命感に生きること」。神谷が生きがいをとらえようとする様々な言葉から浮かびがあるのは、生きがいが、他者のものとは安易に比較できない「固有のもの」であるということだった。第一回は、神谷美恵子が探求し続けた「生きがい」の多面的な意味を、さまざまなエピソードを通して明らかにしていく名著76 「生きがいについて」:100分 de 名著

精神科医神谷美恵子は1966年『生きがいについて』を発表.
出版後「生きがい論ブーム」を巻き起こし,「生きがい」という言葉が大ブームになる.
ところが,この言葉は行動経済成長期,企業戦士を鼓舞するために利用され神谷は憤りを感じる.

  • 「生きがい」は人生を底から支えているもの
  • 「生きがい」を毎瞬 感じなくてはならない

  • 神谷が言う「生きがい」は「仕事」などでは無い.質的なものと,量的なものと考えたほうがいい.「生きがい」は数に置き換える事ができない,その人だけのもの.

  • 神谷は「生きがい」= 生存理由と述べる

  • 生きがい

    • 「この子は私の生きがいです」など生きがいの対象を指す時
  • 生きがい感

    • 「生きがい」を感じているという精神状態を意味する時
  • 神谷にとって「生きがい」は動的な言葉

  • 自分に向かって心の中でつぶやくほかないものが本当の生きがい

  • 神谷は,理屈から世界を見ることを戒め,根源的な経験から世界を眺めることを促している.

生きていくうえでぶつかる4つの問い

  1. 自分の生存は何かのため、またはだれかのために必要であるか。
  2. 自分固有の生きて行く目標は何か。あるとすれば、それに忠実に生きているか。
  3. 以上あるいはその他から判断して自分は生きている資格があるか。
  4. 一般に人生というものは生きるのに値するものであるか。

1, 2 は個人の問題,3, 4 は人類の問題

  • 人は,普遍的な問題から個人の問題を解決する傾向がある.神谷は,「生きがい」を発見するには,個人である自分のこと(1, 2の問題)から徹底的に考えるしかないと言う.

  • 神谷の言う「使命感」とは,自分のために誰かを使うのではなく,誰かのために自分を使うということ

  • 神谷は「生きがい」を失った時,「待つ」ということが大切と言う.

  • 「待つ」ことは創造的な新しいものを生み出す,どうしても欠くことのできない営み
  • 「生きがい」は一見,消極的に見えるようなもの(「待つ」)の後ろに隠れていることがある.
  • 「待つ」とは,思いどおり生きることができないこと.それと人生の創造性とは関係がない.

NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」第4回「働くってなに?」

第4回「働くってなに?」

「仕事は雑務ばかり 価値ややりがいが感じられない」Aさん(29歳男性)


肉体労働者をしながら思考を追求した20世紀アメリカの哲学者 エリック・ホッファー(1902-1983)の考えが紹介される.

ホッファーは49歳を過ぎてThe True Believer: Thoughts on the Nature of Mass Movements (Perennial Classics)がベストセラーになり,教授の誘いを受けながらも沖仲士(おきなかし)の仕事を一生涯続け,働くことの意味を書き溜めていった.

ホッファーは,
我々は「仕事が意義あるものである」と言う考えを捨てなければならない
仕事にとって大切なことは「自由」「運動」「閑暇」「収入」この4つの"適度な調和"である
と言う.


ゲストのお悩みは益若つばささんの
「「面倒くさい」と言う若者になんて言えばいい?」


モンテーニュは,
世界を経験させよ そして 欲望と興味をわかせよ

ハイデガーは,
生の有限性を意識すれば輝ける

と言う.

NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」第3回「自由になるには?」

第3回「自由になるには?」

「親の言いなりになっている自分 自由を獲得するには?」Aさん(28歳女性)


20世紀の"知"のスター フランスの哲学者 ジャン=ポール・サルトル(1905-1980)の言葉が示される.
ノーベル文学賞の辞退,ボーヴォワールとの契約結婚など自由の精神で生きたサルトルは,

「人間は自由の刑に処されている」

と言う.

この意味は,ネガティブな意味ではなく,人間は自由を宿命付けられている,
そして自由に選択したらその責任を負わなければならない,という,
その自由の重さを言っている.

また,サルトル

「実存は本質に先立つ」

とも述べる.

実存,本質をここではさしあたり,存在,役割に置き換え読む.1

すると,まずは存在があって役割がついてくる.
これは人間のみに当てはまる自由の定義.
車や椅子など,すべての「物」は,役割があって存在があるが,人間だけは違い,存在があって役割がついてくる.
すなわち,「実存は本質に先立つ」

人間だけは最初から役割が定められているのではなく,自分で自由に役割を見つけていく. 全ての人間は自由に選択しながら人生を切り開いて生きている.


ゲストのお悩みはいとうあさこさんの「女性として自信が持てない」

サルトルのパートナーのシモーヌ・ド・ボーヴォワール(1908-1986)は『第二の性』の中で

「人は女に生まれるのではない 女になるのだ」

という.

決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫)

決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫)

ボーヴォワールは,「女性」というのは社会がイメージを作っていると考えた.
社会的な女性らしさを意識しすぎないと,一人の人間として魅力的に生きていける.
すると必然的に,女性としても魅力的に生きていける.

古代ギリシャアリストテレス

「自分の善を知れ」

という.
ここでは,善を自分の本当の姿,いいところと定義し,自分のいいところを知れと読む.2


  1. 実存,本質の意味については岩波哲学・思想事典を引くことをおすすめします.

  2. 善についても1. と同様

NHK Eテレ「世界の哲学者に人生相談」 第2回「孤独を抜け出るには?」

第2回 テーマ「孤独を抜け出るには?」

「上京してきた新入社員です.なかなか周囲に馴染めず友人もできません.このまま一生 孤独かと思うと不安になります.どうしたらいいのでしょう? 」Aさん(24歳男性)


解決すべく名乗り出た哲学者は,20世紀に活躍した孤独のスペシャリストエマニュエル・レヴィナス(1905-1995) *1

親兄弟をナチスに虐殺される壮絶な体験から考えた「孤独の本質」と,抜け出すためにすべき「行為」を提示する.

レヴィナスの考えた孤独の原因は,単に一人ぼっちになったということではなく,それは心の中にあった.

最初,レヴィナスは家族や友人がいてお互いになんでもわかりあえる世界にいた.

しかし,その世界の人達はいなくなる.

見知らぬ人々が住む世界は自分が悲しみに暮れているにも関わらず,まるで何事もなかったように平然と続いていた.

この時見えた世界,自分の周りには人格や感情,表情もなく,ただ立っている人々

顔すらもない,ただ在るだけの存在になった人々の姿だった.

この世界をレヴィナスは,イリヤ(il y a)と名付けた.

イリヤとは,フランス語で, ~がある という意味.

自分とは関係なく,ただ存在するだけの世界

レヴィナスは,孤独から抜け出るために他者の顔を見つめることから始めよという.

レヴィナスの唱えた,他者の顔をみつめることによって一体,なにが起きるのか?

レヴィナスは,顔は他者への一番近い入り口と考えた.

他者の顔を見ようと意識すると,のっぺらぼうのようなものから顔が生まれ,一人の人間に戻ってくるように感じると言う.

その人自身を直視すると,社会的属性(社会の役割)が消えてその人自身が浮かび上がる.

さらに,レヴィナスが見つめて欲しいのは,仲間や知り合いなど私が理解る世界の人々ではなく,外の世界に生きる人々.

この世界の人達[外の世界に生きる人々]を他者と認識し,理解することで孤独から抜け出すことが出来ると言う.


ゲストのお悩みは 石井竜也 さんの「自分から放つスターのオーラを消したい」

ニーチェ(1844-1900)は『悦ばしき知識』の中で, おのれの最善のもので害をなすと述べる.

おのれの最善のものとは,才能や優れた部分のこと

自分の美点が自分を駆り立ててしまって(自分の)弱い部分を抑えきれなくなり悲鳴をあげている,ということ.

アランは, 自分とケンカしないようにするべきであると考えた.

ここでの自分は,決めたことや宿命のこと.

自分を受け入れるしか無く,そうでないと自分が苦しむだけである.

*1:生年はロシア暦 です.